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​千年の風

​ 早いもので、3枚目のミニアルバムのリリースとなった。いつもながら、プロデューサーでもある東海林克氏のリードに感謝である。歩を進めるスピードに、焦りもなければ淀みもない。淡々と、しかし滞ることなく状況が移り変わっていく。

わたしは、はい了解、とその船かレールかわからないけれども安心のうちに風をきって前進する。

 タイトル曲は、お世話になっている方のひと言から生まれた。とあるお寺に関わっていらっしゃるその方が、「◯◯寺の歌を作ってみますか。」と仰ったのだった。そこにどんな意味があったかはわからないが、わたしは即座にやってみたい!と思い、「はい!」と答えた。

 母方の祖父は禅寺の住職。父方は江戸時代から代々栃木の神社の宮司。そんな家系に生まれたわたしは、寺社仏閣が大好きだった。わたしだからこそ作れるものがあると思った。

 それから、犬の散歩をしつつ村の神社の石段を上り下りする時にメロディと歌詞を作っていった。最初の歌詞はあまりにも堅苦しく言葉も難解だったためとりやめることにして、新たに親しみやすい雰囲気に作り直した。今となっては最初の歌詞も見てみたいが、どこかに行ってしまってもうない。それはそれでいいのだろう。

 当初からわたしの音楽活動を応援してくれている友人は、この曲を聴いて涙が止まらなくなったという。パーカッションのメンバーも、この曲が一番好きだと言った。

 気に入ってもらえることは本当にうれしい。曲をリリースすれば、もうそれは聴いてくれる側の感性の世界のことなのでこちらはどうすることもできないが、すっと心にいい形で受け止めてくれる人がいるのはとてもラッキーで有難いことだと思っている。

 ほかに、アイッリッシュソングに日本語の歌詞を付けたもの、絵描きである古い友人の小さな絵から生まれたもの、魂の故郷アイルランドの森の妖精のイメージから生まれた〜と言ってもスピード感のある〜曲、大好きなバッハの小品のコード進行をもらって曲のイメージをふくらませたもの、そして佐賀県唐津市の離島にある学校とその校長先生の思い出から生まれたもの、というバラエティに富んだ内容となった。

 曲の仕上がりには、アレンジャー東海林克氏の腕前の妙が冴える。自分で作っている時とはまったく違う景色を見せてくれたり、想像していた音楽世界を拡げてくれたり、と、仕上がりがとても楽しみだった。特に今回は、編曲の面白さも今まで以上に堪能してもらえることだろう。ギターの音色とメロディの美しさは言うまでもない。

 ピアノは東海林仁美さん。克さんの細君だ。克さんの意図することを的確に読み取り、それを音にしてくれる天才である。滴る水音から嵐の前兆のような音まで、自由自在に楽器を操る。二人の息の合った演奏は、いつ聴いても小気味好い。

 ベースは鈴木友博氏。ヘビーメタルバンドのベーシストだが、その時とはまた違ったリリックであたたかみのある音にはいつもながら脱帽である。特に「千年の風」では、うねるようなベースラインが縦横無尽に宙を駆け、曲を力強く支えてくれている。必聴の神 bassである。

 そして、アルバムの顔でもあるジャケット。これは尊敬する地元の画家新居田郁夫氏にお願いをした。中学生だったわたしを知る方である。この方のジャケットならライナーノーツはこの方しかいない、と思い、詩人の硲杏子さんに無理を言って依頼させていただいた。身にあまる文章を頂戴し、恐縮してる。

 80歳を超えられたお二人の芸術的な表現を、いつものヒミキヨノさんが、これ以上ないセンスでデザインし、作品に仕上げてくださった。形状、質感、文字、配置・・。真のアーティストは、何を手がけてもアートになる。澄んだ瞳で見つめるものには、必ずや魂が宿る。

​ こうして、信頼する方たちの協力を得て、今みなさんに発表できる有難さをひしひしと感じている。

 あなたの胸に、何かあたたかいものが一瞬でも宿ればそんな幸せはありません。

この旅に出ることは知っていた

 いつの間にか、第1作から3年近くが過ぎていた。その間、いろいろなところに行き、いろいろな人に会い、そしてまたいろいろな景色を見せてもらった。新しい音楽も生まれた。決してたくさんとは言わない。器用ではないわたしに合ったテンポで進めてきた。

 東海林克氏は、各所でのliveサポートをしてくれる尊敬すべきギタリストであると同時に”埴科きき”のプロデューサーでもあり、この3年間、本当に無理なく歩かせてもらった気がする。そして彼が全幅の信頼を置くピアニスト東海林仁美さんも、可能な時必要な場で、音楽の厚みを、素直でまっすぐな音とたぐい稀なセンスをもって美しく構築してくれている。

 また録音を中心に、東海林氏の幼馴染であり、今も変わらぬ友人である鈴木友博氏のベースが、全体をふわりとあたたかく包んだり、曲に躍動感をもたせたり奥行きを作り出したりという需要な役目を担ってくれた。

 そんな三人の大好きな演奏家たちに支えられて生まれたのが、この2作目のCDだ。タイトルは、いろいろな意味でずっと憧れ続けている近藤康平氏の小さな絵の題からいただいた。絵は小さいけれど、そこには無限に広がる大海原が存在し、心地よい風が吹き、白い帆のヨットが波間をすべっている。それと競うように、戯れるように、鳥が低空を飛ぶ。若くして他界した大事な友人は書家で、わたしを漢字一文字で表わすというお題を前に、色紙に「鳥」と書いてくれた。わたしと話していて、わたしは鳥のようだと思ったらしい。

 「鳥」が、ヨットとともに風に吹かれながら舞うのだ。つまりわたしはもうその絵の中にいる。「風を探す旅人」なのだから。

 そんな経緯もあり、この絵とタイトルが大好きだったし、同じ名前の曲が生まれるのはごく自然なことだった。そしてCDのジャケットに使わせてもらい、アルバムタイトルにもさせてもらうという図々しい流れに持っていってしまった。そのことを遠慮がちに申し出ると、近藤氏は快くOKを下さった。とてもうれしかった。

 そして、ライナーノーツのみならず、今回もジャケットや盤面のデザインをお願いしたのがヒミキヨノさんである。彼女にまかせれば何の心配もない、というくらい信じている人だ。前回の近藤さんの時もそうだったが、どんなことを書いてくれるだろうとわくわくしながら待っていた。読んだ時わたしは、不覚にも涙を流した。ソロ活動を始めたときからずっとその流れを見守ってくださっていたキヨノさんから、またしても、言葉によって強くあたたかい励ましをもらった。”Keep  Going"の絵で、葉書大のエネルギーアートで、心通う石で、常に背中を押し続けてくれたキヨノさんから、発売前に大きなご褒美をいただいてしまった。

 2ポケットのジャケットを、これだというものが見つかるまで探し、勧めてくれた曲ごとのセルフライナーの内容にも注意を払ってくださり、英訳にも小さな妥協もせずに取り組んでくれて出来上がったCDである。音と、絵と、言葉とデザインの、最高のコラボレーション。またひとつ、わたしにとって最強、そしてこの上なくしあわせな作品が出来上がった。

 応援してくれている友人知人たちに心から感謝しつつ、これから出会う方たちに向けても、自信を持って今作を差し出したい。

KEEP GOING

 埴科きき1枚目のミニアルバムが出来上がった。タイトルは「KEEP GOING」。
 自宅の一室にかかっているヒミキヨノさんの絵に書き込まれた文字が、これなのだ。
 粗い木のマチエール。白い地色の上に、自由に走らせた暖かい色彩のクレパスの線。控えめだが、見る角度によってくっきりと浮かび上がる金色の文字。そして左上には、小さなハート型の石が配置されている。ジャケットを大好きなこの絵にしたいと申し出ると、快諾をいただいた上に、歌詞カードやジャケット裏面の制作もして下さることになった。愛と意思とやさしさが、この絵の小さな四角の中にたくさん込められているように思う。わたしはこの絵にどれだけ励まされたかしれない。
 歌詞はしっかりしたトレーシングペーパーに印刷されており、シンプルな盤面デザインとともに、視覚的な美の要素がキヨノさんのアートワークによってもたらされた。
 
 さてCDの主役は、音楽への愛がたくさん詰まった6曲の音源。
 信頼するギタリスト、東海林克氏が全体のアレンジを手がけてくれることによって
アルバムのカラーが決まり、彼はプロデューサーとしてもこのプロジェクトを導引してくれた。Ruahで彼のパートナーを務めるピアニスト今村仁美さん、古くからの音楽仲間であるベーシストの鈴木友博氏、そして自宅にスタジオを持つ彼の友人荒井智行氏の協力も得て、オリジナル曲とイギリス古歌「Green Sleeves」が生き生きと生まれ変わった。命を得た、と言ってもいいかもしれない。音楽がこの世に音の波として放たれることは、「誕生」に等しいできごとに思える。
 できたてほやほやの曲を、歌い始めの時期に切り取った歌唱にはまだまだ頼りなさが残るが、安心のうちに力を抜いて歌っている風情は、還るべきひとつの原点としてとらえられると思う。すべてはここから始まった。
 
 仕上げの時期に花を添えてくれたのは、16年来の友人である近藤康平氏によるライナーノーツ。彼は今や全国各地で活躍するライプペインティングのアーティストであるが、その活動の合間を縫って曲を丁寧に聴き込んで下さり、この上なくあたたかい言葉の数々を寄せてくれた。届いた原稿を読んだ時には涙が出てきた。読み返すたびに、またがんばらなくてはと、素直に思える。
 
 そして、20年以上に渡って共にオリジナル曲を作り発表を続けてきた錦織咲也、ここ数年、プロフェッショナルな音楽とその在り方を熱く指導してくれた重廣誠氏。二人がいなかったらこのCDは存在しなかっただろう。ギタリスト東海林克氏とのデュオLiveを最初に勧めてくれたのもこの二人だった。本当にありがとう。
 
 このようにたくさんの人たちの有形無形の協力を経て長い旅路の末に形となったミニアルバム「KEEP GOING」。すでにアイルランドの地に上陸し、精霊の丘Loughcrewの風にも吹かれてきた。タイミング整い、アイルランドにて先行発売となったのだった。(完成形のものではなかったが。)
 
 伴奏は、心洗われる美しいギターとピアノをメインに構築され、20年前に作った「風と雲と」には、躍動感あふれるベースが加わっている。東海林氏がまとめてくれたシンプルで気品のある伴奏音源に歌を乗せたのが、もうずいぶん昔のことのように思える。歩き出した曲は少しずつ成長を続けている。よりよい姿となって皆さんにお届けできる時が楽しみだ。
 
 最後になっだが、このCD制作に取り組むにあたり、様々な形で応援してくれた友人たちと家族に、心から感謝の意を表したい。
 
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